「遅せーよ職員! 2週間放置て…」

 ブログに書き込んだこの言葉が、俺の気持ちを集約してるだろう。首相官邸の屋上にドローン(小型無人機)を落としてから発見されるまでの2週間、どれほどイライラしたことか。
 原発再稼働への抗議行動として、第3次安倍内閣が発足した去年のクリスマス・イブにドローンを落とそうとしたけど、土壇場で怖気づいて未遂に終わり、〈気が狂うほど後悔〉(俺のブログ『ゲリラブログ参』より、以下同じ)した俺は、大飯原発再稼働が絡む福井県知事選を混乱させようと、選挙直前の4月8日に再度ドローン墜落を企てた。しかし今回、墜落自体はうまくいったものの、〈帰宅後ニュースをみるが…何も報道ない…〉。で、やっとドローンが見つかったのが、なんと2週間も経ってから、それも偶然みたいな形で。
 〈選挙とっくに終わって意味無くなった…〉〈自分の無能さが悲しい…官邸の警備も無能で悲しい…〉とすっかり意気消沈しながら警察に出頭したけど、後から考えれば、計画がポシャったのにわざわざブログを公開し、出頭してありのままを話すなんて己の投げやりなバカ正直さにも、ちょっと後悔したくなってくる。当初のプランが断念を余儀なくされた時点で、すみやかに進路微調整を図る――革命なんかには、そういう「したたかさ」や「しなやかさ」が欠かせないんじゃないのか?
 というワケで、どうせ「脱原発」をペラペラ喋るなら、ドローン発見の遅さを逆利用して、こんな風にでも嘯(うそぶ)いてやればよかったな。
 「日本の危機管理体制の脆弱さを世に晒すべくドローンを落としてみたが、まさか官邸の屋上が2週間も放ったらかしとは、思ってた以上に呑気なもんだぜ。そんなユルい国の首相がアメリカ議会で安全保障を語るなんて、相も変わらず間抜けなことで。
 そもそも『国防』だの『危機管理』だのと柄にもない方向で力まなくても、日本は今までどおり“尊い平和ボケ路線”を堂々と邁進すればいいんだよ。アメリカなんかと下手につるんでたら、守られるどころか敵を増やすだけなんだし。
 なんでドローンに放射線入りのペットボトルを付けたかって? 『こんなにガードが甘いんじゃ、テロリストに原発を狙われたら一溜まりもないぞ、とりあえず原発だけはサッサとやめちまえ』って、ご親切なメッセージ代わりさ!」

 しかし、今回の俺の仕業がドローン規制や監視社会化に一役買ったり、脱原発派の人たちに対する世間の印象を悪くしたり、思えばずいぶん見当違いな真似をやらかしたもんだけど、「中途半端な叛逆」が却って世の中の保守化を促すことは幾らでもある。ほら、古い世代にもいただろう、学生の頃は理想ばかり語ってたくせに、社会へ出たとたん現実ばかりを語り出して、日本の保守化に大きく貢献した「自称・異端児」の連中が。
 だいたい、どっちか極端な方向に振り切れるほど安易なことはないし、また安易なことってのは最終的にロクな結果を生み出さないもんだよ。いや、俺がエラそうに言えた義理でもないけど。

 しかし、冷静に考えてみれば、みんな俺のやったことに反応しすぎじゃないのか。威力業務妨害だか何だか知らないけど、要は他人の家に落とし物しただけだろ? 同じ時期に起きた千葉の生き埋め殺人なんかとは比較にならないほど些細な事件なのに、マスコミの扱いはむしろ俺の方が大々的なくらいだったし。
 そうそう、同じ時期といえば、池袋の「電車の見える公園」で放射性物質が見つかった話、あれは一体どうなったんだ? ブツの正体がラジウム入りカプセルだと判明したのを最後に、報道がパッタリ途絶えたじゃないか。その後の捜査に進展がないだけなのか、それとも「ヤバい筋のブツ」だと分かって闇に葬られたのか……どちらにしても、俺のドローンに付けたセシウムが毎時1マイクロシーベルトなのに、あのラジウムと来たら480マイクロシーベルトだぜ? ハッキリ言えば、公園で遊んでる普通の子供たちより、官邸に住んでる奴らの方が480倍以上も大事だっていう、マスコミの本音の表れじゃないのか?

 とにかく、俺の行為が「穴だらけの警備体制に警鐘を鳴らした」なんてベタなこと以上に今回よく分かったのは、狙われた当事者であるはずの政府が何もしなくても、マスコミや世間が率先して目の色を変え、俺を「国家に楯突く極悪人」に仕立て上げてくれたってことだ。さすが、反米軍基地の「オール沖縄」にも引けを取らない「オール日本」だな。政府がうまく手なずけたというより、みんなよくも自分から手なずけられたもんだよ。
 そういう「自主規制」華やかなりし状況下でも、簡単に諦めて権力の軍門に下ったりせず、何とかして網の目を掻い潜れるかどうか。ほら、映画の『ミッション:インポッシブル』で、スパイ役のトム・クルーズが、当面の作戦がいかに遂行困難かを同じチームのスパイ仲間にさんざん説明した挙句、「それでもやるのか?」と訊かれてニヤリと一言「もちろん!」と返すようなノリで。革命なんかにも、ああいう「明るさ」や「前向きさ」が欠かせないんじゃないのか? いや、俺がエラそうに言えた義理でもないけど。

 しかしまぁ、俺もいろいろ間の悪い男ながら、最初の勤め先の自衛隊を早々に辞めたことだけは先見の明があったな。あのままズルズル居座ってたら、いずれ地球のどこかで見ず知らずの人たちを殺したり殺されたりする憂き目に遭ったかもしれないし。
 人にしても国にしても、誰かを殺して生き延びるくらいなら、自分が死ぬ方がまだマシだろ? いや、待てよ。それを言うなら、俺たち人間の生命は、動物や植物を喰らいまくってこそ成り立ってるってことを、いつもしっかり肝に銘じておくべきだな。


'15.春  東雲 晨





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