今年の隅田川花火大会は、いつもより1ヶ月遅い8月末に開催された。東日本大震災を受けて自粛に踏み切る花火大会も少なくない中、逆に「震災からの復興を願う」とのテーマを掲げて隅田川上空に2万発が打ち上げられ、そこには例年を凌ぐ熱がこもっているように感じられた。
 日本各地に根づく「夏の風物詩」、花火大会。技術の進歩によって、打ち上げ花火や仕掛け花火の色彩・形状は年々美しくダイナミックになるが、そういう「絵」と双璧をなすインパクトが、現場に響く「音」の迫力にある。肚の底を直撃する、重厚無比な爆裂音。そこでは、「華やかな映像」と「力強い音声」の競演が観客たちを惹きつける。
 また、土地々々に古くから伝わる多彩な祭りも「華やぎの象徴」たるものだが、日本の祭りを代表する「ねぶた」や「だんじり」や「どんたく」に共通するように、祭りというイベントは底抜けの「勇壮さ」を備えている。我々の日常生活に蔓延する「平穏で細やかな弥生文化」とは対極をなす、豪快で猛々しい縄文文化の発露。「日本文化の源流」とは、まさしくこの辺りにあるのだろう。祭りの魅力としては、各地域の人々の「郷土愛」や「地元意識」がことさらに強調されるが、実はその魅力の核心は、日本人の中に眠る“太古からの熱情”をグラグラ揺さぶるところに存在するのではなかろうか。

 8月末の同じ日には、日本プロレス界のメジャー3団体による東日本大震災復興支援チャリティープロレス興行“ALL TOGETHER”が、日本武道館で催された。新日本、全日本、NOAHの各団体所属選手に、独立系団体やフリーランスを加えた総勢82人ものレスラーが参加、「復興支援」の旗印のもと、普段以上に熱いファイトを繰り広げたのだ。
 「アクション演劇」というプロレスならではの舞台において、全選手が身を削ってのパフォーマンスを惜しげもなく展開する。ジュニア(軽量級)戦士が飛び交う空中戦は、その昔より動きが格段に高度かつ危険を極めたものとなり、ヘビー級レスラーが繰り出す力技は、その一つひとつにゴツゴツした精魂が宿る。演者たちが「目一杯」を披露したそれらは絢爛豪華な“花火”であり“祭り”であり、「被災地に勇気を届けたい」などという名目に潜みがちな甘く湿ったセンチメンタリズムを吹き飛ばすくらい、確かにパワフルで活気が漲るものだった。3.11以降の日本に機械的な枕詞のごとく氾濫する「がんばろう東北」とは一線を画す真剣味に貫かれ、また復興へ向けた日本の政治家連中の“正気を疑う”無能ぶりが、レスラーたちの奮闘をより効果的に引き立てる。
 プロレスラーは常日頃から、都会や地方を問わず日本全国を巡業し、現地では自ずとファンとの「ナマの交流」が深まる。結果、それぞれの土地に並々ならぬ愛着や思い入れが湧き、「日本各地が故郷」とでも言えるほどの親近感が芽生える。ゆえに彼らとしては、東北に限らずどこが災害に見舞われようと、それこそ「他人ごと」とは思えない気持ちになるだろうし、「復興に役立ちたい」との想いにも切実な重みが加わることだろう。そこには「日本のために」という“大和魂”的な力みが匂わぬでもないが、兎にも角にも、この大会での尋常ならざる「放熱度」には、そんな事情が多分に影響していたはずである。
 また、プロレスのリング上の「脚本」においては、往々にしてレスラー間の遺恨や因縁が演出されるが、それだけに収まらず、ファンなら誰もが知るようにリング外での(つまり「素」での)確執も時として表面化する。大勢のレスラーが一堂に会した今大会でも、積年の愛憎渦巻くリアルな人間模様が随所に織り込まれ、それがストーリー全体に一種の“虚実ないまぜ感”を投げかける。「本気だと嘯(うそぶ)いて演技をする中に、純然たる本気が図らずも交錯する」……表と裏、作為と無作為が特異な形で入り乱れた極めて人間臭いジャンルからは、「軋み」にも似た“ブルース”が立ち昇ることとなる。
 プロレス独自の「華」と「力感」、そして何よりも独自の「哀愁」。芭蕉の「おもしろうて やがて悲しき…」は“祭りのあと”の物悲しさを詠っているが、リング上の「アクション演劇」においては、明るく激しい“祭りそのもの”が同時に涙をも誘うのだ。痛みや悲しみを前面に押し出すことなく、楽しさや強さの陰に忍ばせる――この辺りからも、「日本元来の美意識」が汲みとれるのではないだろうか。

  “ALL TOGETHER”の第2弾は、来年2月に仙台での敢行が決定している。被災地の人々へと直に届くレスラーたちの鼓舞を受けて、今回を凌駕する盛り上がりに包まれることだろう。
 花火、祭り、パフォーマンス……「東日本大震災からの復興」と銘打って為されるこういった取り組みは、奇しくもある意味で「日本人それ自体の復興」という壮大な色合いすら帯びているのかもしれない。


'11.秋  東雲 晨





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