2001年に発足したプロ野球OBによる公式リーグ戦「マスターズリーグ」が、このほど2年目のシーズンを迎えた。今年の開幕戦である東京ドリームスと大阪ロマンズの試合が行われる夜、私は東京ドームの1塁側スタンドに陣取っていた。
 グラウンドには、私が初めてプロ野球選手名鑑を手にした小学生の頃の名選手たちがズラリ勢揃いである。とりわけ、阪神、阪急、南海、近鉄という当時の在阪電鉄4球団出身選手を主なメンバーとする大阪ロマンズの顔ぶれは、関西人である私の内からひときわの懐かしさを呼び起こして止まない。阪急ブレーブス黄金時代の代名詞的存在だった福本と大熊の1・2番コンビ、元祖・近鉄いてまえ打線の中心にいた小川と栗橋、漫画『あぶさん』のモデルにもなった南海・柏原らのプレイからは、「かつて大人たちが傾きかけた陽射しの中で繰り広げていたプロ野球」の匂いがプンプン立ち昇ってきた。
 ほかにも、52歳にして140km近い豪速球を唸らせる村田兆治、いまだ驚異的な守備範囲の広さを誇る小兵・弘田など、ナチュラルな魅力あふれる選手は枚挙にいとまがない。“個性の時代”と呼ばれる現在よりもはるかにクッキリ濃厚な個性たちが、私の目の前で脈打つように飛び跳ねていた。
 ここ数年、日本のプロ野球はメジャーに挑む選手を次から次へと輩出するまでにレベルを上げてきている。パワーにしろスピードにしろ、ひと昔前とは比べ物にならないだろう。が、それに反比例するかのように、往年のプロ野球に充満していた匂いや味わいが消え失せつつあるのもまた歴然たる事実だ。無味無臭は時代そのものの風潮であり、今やどの分野にもいえることだから、野球だけを責めてみても仕方がない。しかし、メジャーに張り合うほどの実力があるか否かなどよりも、独自の雰囲気を孕んでいるか否かの方が、エンターテインメントとしてはむしろ重要なのではないだろうか。ちょうど、実力ではプロ野球に到底かなわぬ高校野球が、プロ野球には絶対に醸し出すことのできない特有の煌きを放つように。
 マスターズリーグ開幕戦。それは、21世紀に甦った古き良き時代の強者どもが、21世紀型のプロ野球に向かって「どちらの野球が優れているか」を高らかに魅せつけているかのような、そんな風情を感じさせる何とも渋くて華やかな2時間半だった。


'02.秋  東雲 晨





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